■「ネットと愛国 在特会の『闇』を追いかけて」
安田浩一 講談社
2010年末から2011年にかけてノンフィクション雑誌に掲載されたルポルタージュを単行本化したもの。デモやインターネットを駆使して在日コリアンへの誹諦中傷を繰り返す在特会(在日特権を許さない市民の会)のデモに何度も足を運び、メンバーに直接インタビューするなどして、その実態に切り込んでいる。
自分の中にも「在特金的なるもの」がうごめいているかもしれぬ、という著者の言葉は、誰もが在特金的な「闇」に落ち得るという警告でもあろう。
■「ヘイト・スピーチとは何か」
師岡康子著 岩波新書
差別的な言葉も「表現の自由」としていいのか。差別される側の深刻な苦しみを放置していいのか。国際社会では、悪質な差別を法で規制することはすでに共通認識となっている。同書は国際社会の制度を紹介し、法規制濫用の危険性も考えながら、共に生きる方法を探る。
”小難しくとっつきにくい” 印象は否めないが、事例などを紹介しながらできるだけわかりやすく論じられている。読者レビューには、マジョリティや差別と闘う人は必読、と書かれたものもあった。
■「『在日特権』の虚構 ネット空間が生み出したへイト・スピーチ」(増補版)
野間易通 河田書房新社
在特会の成り立ちと、同会の主張する「在日特権」を丁寧に検証し、その虚構性を暴く。資料を紐解き、取材を重ね、小気味良くバッサバッサと切り込む著者は「レイシストをしばき隊」を率いてへイト・デモの鎮圧に努めてきた。一方で「ヘイトを動機とする情報は、強い伝播力をもつ」と危惧し、食い止めるためには「対抗言論を繰り返すしかない」と語る。ネットや書店で埋もれかねない、こうした対抗言論を探して読み解くことも、反レイシズム活動の第一歩だと本書は教えてくれる。
■「日本型排外主義―在特会・外国人参政権・東アジア地政学―」
樋口 直人 著 名古屋大学出版会
日本型の排外主義運動はいかにして発生し、なぜ在日コリアンを標的とするのか? 「不満」や「不安」による説明を超えて、謎の多い実態に社会学からのアプローチで迫る。著者による在特会への直接調査と海外での膨大な極右・移民研究の蓄積をふまえ、知られざる全貌を鋭く捉えた画期的成果。
【書評】
・『合本 AERAの1000冊』(AERA MOOK、2015年10月30日発行、評者:佐藤優氏)
・Social Science Japan Journal (SSJJ、第18巻第2号、2015年、評者: Youngmi LIM 氏)
・『フォーラム現代社会学』(第14号、2015年6月、評者:亘明志氏)
・『社会学評論』(第66巻第1号、2015年、評者:塩原良和氏)
・『ソシオロジ』(第59巻3号、2015年2月、評者:金明秀氏)
・『移民政策研究』(2015年、第7巻、評者:小林真生氏)
・『みすず』(2015年1・2月合併号、評者:道場親信氏)
・朝日新聞(2014年12月30日付、評者:塩倉 裕氏)
・朝日新聞(2014年12月28日付、評者:荻上チキ氏)
・『大原社会問題研究所雑誌』(675号、2015年1月、評者:岡本雅享氏)
・『週刊読書人』(2014年12月19日号、評者:苅部直氏、好井裕明氏)
・『週刊読書人』(2014年12月12日号、評者:吉田裕氏)
・『図書新聞』(2014年7月19日号、評者:笠井潔氏)
・『図書新聞』(2014年5月24日号、評者:伊藤高史氏)
・読売新聞(2014年4月20日付、評者:開沼博氏)
・京都新聞ほか(2014年3月30日付、評者:城戸久枝氏)
■「九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響」
加藤直樹著 ころから
1923年(大正12年)の関東大震災の際、デマによって多くの朝鮮人が殺された。著者は当時の虐殺があった東京各地を訪ねて写真を撮り、証言や記録をもとにそこで何が起こったかをブログで伝え、多くの反響を呼んだ。
同書はブログを加筆し、まとめたもの。関東大震災は過去の話ではなく、放っておけば同じようなことが起こると著者は警鐘を鳴らす。
■「NOヘイト! 出版の製造者責任を考える」
ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会編 加藤直樹・神原元・明戸隆治 ころから
ヘイト本に加担しない有志によってつくられた本。1章は、『九月、東京の路上で』の著者、加藤直樹氏の講演がべースになっており、2章は書店員へのアンケート、3章はシンポジウムでのディスカッションを再構成したもの。4章は識者による論評。横行するへイト本に対し、業界内部から製造者責任を問いている。
書店員のアンケートでは、ヘイト本を平積みにすることへの苦悩や、反ヘイト本とバランス良く置く工夫をするなど、生の声が興味深い。
■「ヘイトスピーチ 表現の自由はどこまで認められるか」
エリック・ブライシュ 著 明戸隆浩・池田和弘・河村賢・小宮友根・鶴見太郎・山本武秀 翻訳
明石書店
いまも公然と活動を続けるKKK、厳しく規制されるホロコースト否定…豊富な事例からヘイトスピーチとその対応策の世界的課題を掴み、自由と規制のあるべきバランスを探る。在日コリアンなどへの人種差別が公然化する日本にあって、いま必読の包括的入門書。
■「ヘイト・スピーチに抗する人びと」
神原 元 著 新日本出版社
2013年春、しばき隊をはじめカウンター行動に立ち上がった市民が、新大久保の排外主義的ヘイト・デモに楔を打ち込んだ。
国連人種差別撤廃委員会勧告を無視し、差別政策を続ける日本政府、排外主義発言を垂れ流す政治家らにヘイト・スピーチ問題の淵源を捉え、法規制をめぐる諸問題にも言及しながら、市民力による克服を展望する。
カウンターを実践する法律家による意欲作!
■奥さまは愛国
北原みのり・朴順梨 著 河田書房新社
フェミニストの北原みのりさんと在日韓国人三世の朴順梨さんの共著。
「従軍慰安婦はウソ」「レディーファーストはいらない」と言ってデモをする上品な主婦ら。彼女たちは音通の主婦…というより平均以上に知的で真面目な良妻賢母なのかもしれない。頑張っても不満や空虚感がぬぐえないとき、自身の悩みを社会課題ととらえ市民活動をする主婦もいるが、他者への憎悪に走ってしまったのが彼女たちなのだろう。
2人の女性著者が、怒り、反発し、傷心しつつ、時に愛国の奥さまたちに居心地の良さを感じるなど、さまざまな感情に悩み苦しみながら取材した渾身の一冊!
■ヘイトスピーチと対抗報道
角南圭祐著 集英社新書
2016年の「ヘイトスピーチ解消法」施行以後、過激なヘイトスピーチデモは減る一方、ネット上での差別発言はいまだ横行している。
その背景にはいわゆる「官製ヘイト」や歴史修正主義があることは見逃せない。
本書は、「共同通信ヘイト問題取材班」としてヘイトスピーチデモの現場で取材を重ねてきた著者が、メディアはそれとどのように向き合ってきたのかを検証。
日韓の戦後補償問題を長年追い続けてきた著者だからこそミクロとマクロ両方の視点からの解説が可能となった、「ヘイトスピーチ問題」の入門書である。
■インターネットとヘイトスピーチ 法と言語の視点から
中川慎二/河村克俊/金尚均著 明石書店
ネット空間のレイシストと闘うために、なぜ国際人権法の枠組みでとらえる必要があるのか。言葉の暴力に抗し、自己を保つ道徳的義務を果たすことができるのか…。国際的な比較研究、様々な事例検証を踏まえ、学際的に考察する。
SNSでのヘイトスピーチについて、国際人権法からの考察と法的規制が進んでいるヨーロッパとの国際比較、そして人種差別とヘイトスピーチの事件への対応事例を示し、さらに「話し手」ではなく「聞き手」に焦点を当てた「聞こえる声」や差別言論のもつ「多声性」への気づきを促すコミュニケーション論と互恵性原則に基づく倫理学の視点から論じる。
■カワサキ・キッド
東山紀之著 朝日新聞出版
ジャニーズ事務所に所属し、現在も芸能界の第一線で活躍する東山紀之氏が半生を語ったエッセイ。子どものころの生活の舞台は、川崎市のコリアタウンの近くにある市営住宅。母と妹との貧しくも懸命に生きた暮らしぶりが語られている。在日の人たちとの触れ合いや、ロシア人の血を引く自らのルーツを明かしたのは、排外主義の波が押し寄せていることを感じたからではないだろうか。
美しく脚色された(らしい)芸能生活は現実味がなく残念だが、仕事を通して沖縄の人や黒人、在日外国人の歴史や自分の想いをさりげなく織り込んでいるのがにくい。
さらに知りたい方に向けた、ヘイトスピーチ関連書籍です。
■「慰安婦」・強制・性奴隷 あなたの疑問に答えますQ&A
日本軍「慰安婦」問題webサイト制作委員会編 吉見義明・西野瑠美子・林博史・金宮子責任編集 御茶の水書房
日本軍慰安婦は公娼だったの? 軍慰安所はどこの国にもあったの?日本軍「慰安婦」問題は『朝日新聞』のねつ造? など23の問いについて、根拠を示しながら明確にわかりやすく解説した一冊。「慰安婦」問題Webサイトから生まれた決定版とのこと。
■「差別語・不快語 (ウェブ連動式管理職検定)」
小林健治 著 内海 愛子・上村英明 監修 にんげん出版
「豊富な事例・ていねいな解説による本格的な差別語・差別表現問題の手引き」とあるように、なぜそれが差別表現なのか、差別語と差別表現の違いは何か、この言葉は差別表現なのか、など迷ったときの判断基準となる便利な1冊。
さらに、「抗議を受けたときにどう対応するか(差別表現問題解決の基本)」や「職場での差別表現にどう対応するか」という具体的な対応策も掲載されている。
■イスラム・ヘイトか、風刺か―Are you CHARLIE?
第三書館編集部 編
2015 年1月、12名が死亡した仏シャルリー・エブド社襲撃事件。しかしショッキングな事件であるわりには、対象となった風刺画の内容はあまり問われていない。同書は、シヤルリー・エブド紙が掲載してきた風刺画が、はたして風刺なのかへイトなのか、問題提起をしている。同紙に掲載されたものを中心に、欧米の風刺画など40数点を日本語訳や解説とともに転載している。なかには、フクシマの事故を皮肉る風刺画もある。
ヘイト表現そのものと思われる画も、風刺を満たしていない画もあり、掲載する側の「レベル」というものも考えさせれる1冊。
■ 「ヘイトスピーチってなに? レイシズムってどんなこと?」
のりこえねっと編集 七つ森書館
のりこえねっと本、第一弾! のりこえねっとの共同代表がどんな思いでこの活動に参加したのかがわかるコラム集。
■「NOヘイト! カウンターでいこう! 」(のりこえブックス)
のりこえねっと編集 七つ森書館
2013年から毎週放送している「のりこえねっとTV」を選りすぐって収録しました。